参考資料(1)〈学名について〉

「生物学名命名法辞典」(平嶋義宏著 平凡社 1994年)から

以下の資料は、「冬虫夏草の基礎知識」「冬虫夏草の魅力」「和名・学名対照一覧表」の各本文に関連した引用です。このページ単独の転載、利用はしないでください。

■同書の「麦角と冬虫夏草」に関する部分の引用

 バツカクキン目に入るキノコには麦角や冬虫夏草をつくるのがある。オオムギ、コムギその他のイネ科の雑草の穂の一部に黒っぽいネズミの糞のより小さなものができることがある。これを麦角といい、バッカクキンClaviceps purpurea(クラウィケプス・プルプレア)が作った菌核である。属名は「棍棒状の頭の」、種小名は「紫の」という意味で、どちらもラテン語由来。

 冬虫夏草は昆虫に寄生した菌がキノコを作ったものをいう。冬は虫、夏は草の姿になると信じられ、中国では強壮剤にも、また一部では食用にもされる。冬虫夏草は100種位が知られていて、蝶や蛾の蛹・幼虫につくサナギタケ、カメムシの成虫につくミミカキタケ、ハチの成虫につくハチタケ、セミの幼虫につくセミタケなどは有名である。これらは全部Cordyceps(コルディケプス)という属に含まれる。この属名はギリシア語のkordylë(瘤)とラテン語のceps(頭)の複合語で、これらのキノコのてっぺんがふくらんでいるための命名である。セミタケCordyceps sobolifera(ソボリフェラ)。種小名はラテン語形容詞で「芽を生じた」。本属名は造語上はCordyloceps、あるいはギリシア語源でCordylocephala、 ラテン語源でNodicepsとすべき学名である。ラテン語nodus瘤.

■学名の表記の原則に関し、同書の凡例からの引用

(1)種の学名は二名式であり,イタリック体(斜体)で表記される。例えばヒトHomo sapiens. 属名単独の場合もイタリック体で表記される。例えばヒト属.Homo.
(2)植物や微生物の学名の中に用いられる略号(ローマン体で表記)とその意味は次の通り。
sp.
 種(speciesの略)。種名が不明の場合に用いられる。例えばRhododendron sp.とあれば「シャクナゲあるいはツツジの1種」という意味。複数の場合はspp.と書く。例えぱRhododendron spp.これは「シャクナゲ属の数種類」という意味である。
subsp.
 亜種(subspeciesの略)。
var.
 変種(varietas,varietyの略)。
forma
 型(f.と略する)。

■学名の発音に関する同書からの引用

 学名はラテン語であるから、その発音はラテン語読みが正しい。ただし、ラテン語は死語であるから、これを正確に発音することは難しい。しかし学名はローマ字読みと心得ておけばよい。

 外国では、学名はそれぞれ英語式、ドイツ語式など自国流に発音されていて、ラテン語読みは通用しない。例えば昆虫のクマバチ(熊蜂)属Xylocopa(ギリシア語源で、木を切り刻むもの、の意)は,英語圏では「ザイロコーパ」と発音される。ラテン語読みは「クシロコパ」、日本式は「キシロコパ」である。

 わが国でも学名の発音は統一されていない。例えば枯草菌のBacillus(ラテン語で小さな棒、の意)は、細菌学界では英語式に「バシラス」と読むが、農学界では「バチルス」と発音している。ラテン語読みは「バキルス」である。

 ラテン語には母音の長短がある。その発音はラテン語の文法に従う。たとえば「庭の,庭園の」という意味の種名hortensisは「ホルテーンシス」と読み,「ホルテンシス」ではない。

 重母音6種の発音は次の通り。ae(アエ)、au(アウ)、ei(エイ)、eu(エウ)、oe(オエ)、ui(ウイ)。ただし、aeを「アイ」,oeを「オイ」と発音してもよい。

 発音上特に注意すべきは子音cである。これはkと同様に常に「ク」と発音し、「シ」とは言わない。例えば「西方の」の意の種名occidentalisは「オッキデンターリス」と発音する。これを「オクシデンターリス」というのは英語読みである。

 子音gはドイツ語式に発音する。たとえばgiは「ギ」、geは「ゲ」である。

 子音ch、ph、rh、thの四つはギリシア語(略)を書き換えたもので、その発音はc(=k)、p、r、t と同じである。例えば「胸の」という意味の種名thoracicusは「トラキークス」と読み、「ソラシクス」や「ソラシカス」ではない。ただし、子音phについては現在はf と同様に「フ」と発音されている。例えば棘皮動物のワモンクモヒトデ属Ophiolepis(ギリシア語源で、蛇の鱗、の意)は「オフィオレピス」と発音する。